
奄美大島の名瀬は、鹿児島市の天文館に次ぐ規模を誇る県内第二の繁華街だ。
実際に訪れてみると、その賑わいに驚かされる。想像していた以上に飲食店やスナックが多く、街を歩いているだけで次々と気になる看板が目に飛び込んでくる。
そして何より印象的なのが、街全体に漂うどこか懐かしい昭和の空気感である。
ネオンの灯り、昔ながらの看板、ゆったりと流れる島時間。そして温かく迎え入れてくれる人々の存在。名瀬の夜には「古き良き繁華街」の魅力が色濃く残っている。
今回はスナック巡りだけではなく、さまざまな奄美の魅力を体験した。
奄美ならではの郷土料理や地元で愛される名店を訪ね、島の味も堪能してきた。さらに奄美黒糖焼酎の酒蔵を見学し、その歴史や製造へのこだわりにも触れることができた。
街を歩き、人と出会い、食を楽しみ、お酒を知る。
そうした体験を重ねることで、その土地の魅力はより深く見えてくるものだ。
今回は、そんな奄美大島・名瀬の街をスナッカー目線で歩きながら見つけた、夜の魅力、人との出会い、そして美味しい酒と食の世界をレポートしたい。
さて、今宵はどんな一杯に出会えるだろうか。
名瀬探訪の案内人S氏


今回の街探訪のナビゲート役は、研究会員のS氏だ。
S氏は東京と奄美の二拠点生活を送る人物で、奄美の食・酒・夜の街をよく知っている。
奄美空港に降り立つと、いかにも地元の人といった雰囲気でS氏が迎えに来てくれた。
もはやすでに地元の兄さんから「ちょっと飲みに行こうか」と誘われている空気感である。
今回の旅は、そんなS氏の案内で名瀬の街を歩き、食べ、飲み、そしてスナックを巡る旅となった。
旨いメシと良きご縁


名瀬の夜を歩く前に、まずは腹ごなしである。
案内役のS氏が連れて行ってくれたのは、地元でも評判の名店「ならびや」さん。奄美ならではの料理と美味しい酒が楽しめる人気店だ。
地元の名物料理「塩豚」を始めとして、すべての料理が絶品だったのだが、筆者が特にうまいと感じたのはソデイカの味噌和えとモズク揚げ。
舌が喜ぶと幸せな気分になる。
実はこの数時間前、ちょっとした出来事があった。
奄美空港でS氏が掲げていたのは、「スナック研究会御一行様」と書かれた手作りの歓迎ボード。これが思いのほか目立っていたらしく、大分から来ていた別のグループの皆さんが興味を持って声をかけてくれたのだ。
「スナック研究会って何ですか?」
そんな会話から始まり、スナック研究会の活動を紹介しているうちに話は盛り上がる。
そして気がつけば、「せっかくだから今夜一緒に飲みましょう」という流れになっていた。
こうして「ならびや」さんで再会し、旅先で出会った者同士の宴がスタートすることになったのである。
ご縁というのは実に面白い。
どこで誰と出会うかわからないし、ほんの些細なきっかけが忘れられない思い出になる。
これだから旅もスナックもやめられないのである。
昼の街歩きで見つけた一軒


今回の奄美遠征では、少し早めの便で到着していた会長が、夜に備えて名瀬の街を事前調査していた。
昼の名瀬を歩いていると、歌声が聞こえてくる。その歌声にひかれて出会ったのが「BAR L-Vacation」さんである。
店内に入ると、一般的なバーともスナックとも少し違う独特の雰囲気。広々とした空間の中で、お酒を楽しむ人もいれば、カラオケを楽しむ人もいる。バーとカラオケラウンジの中間のような、名瀬ならではの面白い業態だと感じた。
そして何より印象的だったのが、京香ママの温かい人柄である。
訪れた私たちに気さくに接してくださり、名瀬の街のことやおすすめのお店についてもいろいろ教えていただいた。こうした地元の方との交流も、街探訪の大きな楽しみのひとつだ。
さらに空港で知り合った大分からのグループも合流。昼間はまったく面識のなかった者同士だったが、気がつけば同じテーブルを囲んで乾杯している。
それぞれ立場も住む場所も違うが、お酒を酌み交わせばあっという間に打ち解けてしまう。人と人をつなぐのは案外シンプルなものなのかもしれない。
おかげで名瀬の夜をより深く楽しむことができた。
京香ママ、そしてご一緒いただいた大分の皆さん。楽しい時間をありがとうございました。
今宵の酒を締めくくる一軒


大分からのご一行と別れ、この日最後に伺ったのが「ラウンジみゆき」さんだ。
昭和レトロな雰囲気が漂う路地に、オレンジ色のネオンが優しく灯る。その光に誘われるように扉を開くと、みゆきママが温かく迎えてくれた。
すでにはしご酒で遅い時間になっていたが、店内にはゆったりとした空気が流れている。
席に着くと、パッションフルーツやすももなど、南国らしいフルーツのお通しが次々と並ぶ。その味覚を楽しみながら、ママとの会話に耳を傾ける時間は実に心地よい。
この夜は、地元のダンディーな常連さんや、札幌から旅行で訪れていた爽やかな青年とも同席。
奄美の人、北海道からの旅人、そして関東からやってきたスナッカーたち。
住む場所も世代も違う人たちが、ひとつのカウンターを囲みながら語り合う。
そんな光景こそ、スナックの醍醐味なのかもしれない。
気がつけば時間はあっという間に過ぎていた。
名瀬の夜の締めくくりにふさわしい、温かく心地よい一軒だった。
西平酒造を訪ね、黒糖焼酎を知る


明けて二日目。
前夜の余韻を残しながら、我々が向かったのは黒糖焼酎の蔵元「西平酒造」さんだ。
奄美を訪れるなら、黒糖焼酎は外せない。
実は黒糖焼酎は、日本全国どこでも造れるわけではない。1953年の奄美群島本土復帰を機に、奄美群島だけで製造が認められた特別な焼酎である。
長い歴史の中で島の人々に愛され続けてきた黒糖焼酎は、単なるお酒ではなく、奄美の文化そのものと言ってもいい存在だ。
そんな黒糖焼酎を造り続ける西平酒造では、焼酎の味を左右する米麹に国産米を使用し、豊富な地下水と創業当初から使われている甕(かめ)を使って仕込みを行っている。
さらに蒸留には常圧蒸留を採用。飲みやすさだけではなく、焼酎本来の深い味わいを大切にしているという。
そして西平酒造でもうひとつ興味深いのが、その造り手たちである。
杜氏を中心とした「ミュージシャン軍団」が酒造りを担っており、気候や微生物、日々変化する環境と向き合いながら、その時にしか生み出せない味を追求している。
まるで音楽を奏でるように酒を醸す。
そんな考え方に奄美らしい自由さと温かさを感じた。
前夜に飲んだ黒糖焼酎の味を思い出しながら蔵を見学すると、一杯の焼酎の向こうにある歴史や文化、人々の想いが少しだけ見えてくる。
街を歩き、人と出会い、そして酒を知る。
これもまた、街探訪の大きな楽しみのひとつなのである。
島唄ライブで奄美を体感する


今回の奄美遠征でS氏がぜひ体験してほしいと案内してくれたのが、島唄と島料理の店「吟亭」さんだ。
この日は私たち研究会メンバーだけでなく、S氏の地元の仲間たちや、筆者の友人で現在奄美に移住している仲間たちも集まり、賑やかな会となった。
料理やお酒を楽しみながら談笑していると、店内に三線の音色が響き始める。
しかし吟亭は、ただステージを眺めながらライブを楽しむ店ではない。
島唄の演奏に合わせて、お客さんが自然と参加できる仕掛けが随所に用意されているのだ。
手拍子をしたり、太鼓を叩いたり、踊りの輪に加わったり。
最初は見ているだけだった人も、気がつけばその場の一員になっている。
地元の人も観光客も関係ない。
同じ音楽を楽しみ、同じ時間を共有するうちに、店全体がひとつの空間になっていく。
これこそが奄美の魅力なのだろう。
そしてテーブルには、次々と島料理が並ぶ。
島もずく、とびんにゃ、車エビ、豚味噌、ハンダマの胡麻和えなど、奄美ならではの味覚を楽しみながら過ごす時間は実に贅沢だ。
美味しい料理とお酒、人との交流、そして音楽。
吟亭は、奄美の文化と人の温かさを一度に体感できる場所だった。
ありがとう名瀬、また来る日まで


この日に訪れたスナックは、ソシアルビル4階にある「リップスティック」さん。
昨日飲ませてもらった「BAR L-Vacation」さんから紹介いただいたお店だ。
店内は赤を基調とした華やかな雰囲気、しかし敷居の高さは感じない。
スタッフの皆さんが明るく、自然と会話が弾んでいく。
印象的だったのは、次々と来店する常連さんたちの姿だ。
仕事帰りと思われる方、仲間同士で訪れる方、一人でふらりと立ち寄る方。
皆が当たり前のように店に入り、思い思いの時間を過ごしている。
その様子を見ていると、この店が単なる飲み屋ではなく、地域の人たちの日常に溶け込んだ社交場であることが伝わってくる。
旅人として訪れた私たちも、その夜だけはそんな名瀬の日常に少しだけ混ぜてもらったような気がした。
今回、奄美大島・名瀬を歩いて感じたのは、不思議な懐かしさだった。
昭和の面影を残す路地や看板、ネオンの灯り。もちろん街は今も現役で動いているのだが、どこか昔の日本を思い出させる空気が残っている。
そして印象的だったのは、地元の人と観光客の距離の近さである。
観光地によっては、観光客向けのエリアと地元の人の生活圏が分かれていることも少なくない。しかし名瀬では同じ店で地元の人が飲み、その隣で観光客が飲み、自然に会話が始まる。
人と人が自然につながり、旅人もその輪の中に迎え入れてくれる街というべきだろうか。
だからこそ、多くの人がこの島に惹かれ、そしてまた帰ってきたくなるのだろう。
私たちもきっと、またこの街で一杯飲むことになる。
今宵も一杯、飲ませていただきます。
(筆者:池袋竜一)
